憩いの空間 嶺風の書斎 雲心庵

ギャラリー 第二回

かな書

万葉集より

【読み】
「春の夜の夢の浮橋とだえして嶺にわかるる横雲の空」

【意味】
春の夜のおぼろげな夢からさめ、ふと見ると嶺にかかっていた雲が空のかなたに消えかけている

【解説】
かなは和歌と共に発展した。和歌には文字だけでなく、紙をはじめ日本の美の結晶ともいえる要素を持っている。
そのため、いろいろな工夫がなされていて、上下左右、行間を均等でない構成で書いている。これを「散らし書き」という。
「散らし書き」は一定ではなく、作品ごとに意味や読みを考え散らしてみる。今作品はいかがでしょうか。


随筆

徒然草 「八段」

【解説】
吉田兼好は、日本文学史上特異な人物である。平安時代、貴族を中心とした文学が花開き、源氏物語が代表されるように上流社会を描く作品が多い中、出家した兼好が淡々とつづる徒然草は異色である。そのため、彼が世に紹介されたのは、400数年後の江戸時代になってからであった。


漢字書

【作品】
一字書「興」

【解説】
「興」は、音がコウ・キョウ、訓がおこる・おこなう・おもむき
つまり興は「起こす」という意味である。というが[字訓](白川静著)では、お酒を入れた器から地霊にふりそそぎ、地霊を興すと記している。
“がんばろう日本”にふさわしいのでは、と思い一字書とした。
春だ!うつむかないで、楽しく物事をはじめよう(起こそう)。


色紙

【読み】
きんせきのまじわり

【意味】
変わることのない固い友情

【解説】
人生は「出会いと別れ」の連続である。特に、親しい友の別れは辛い。たとえ別れても生涯変わらぬ友情を誓う言葉として使う。金石とは、金や岩(石)は、固くて簡単には壊れないことを指す。


条幅

【作品】
春眠不覚暁処々聞啼鳥夜来風雨聲花落知多少

【読み】
春眠暁を覚えず 処々啼鳥を聞く 夜来風雨の声 花落つるを知る多少ぞ

【解説】
はじめの五文字「春眠不覚暁」がすべて、これ以上の春を表す詩はないのではないか。本当に幸せな眠りを提供してくれる「春」
悲惨な事故や事件、春眠を脅かすことだけは、御免こうむりたい。


篆刻

【作品】
遊印

【解説】
遊印は「ゆういん」と言う。前回の氏名印や雅印と違って作品の好きな場所に押すので、そう呼ばれた。
もともとは、皇帝の辞令の不正を防ぐ目的で文書に押されたということですが、書では右肩部分に押す「引首印」が効果的で、作品を引き立たせるのに比較的良く使用される。引首印も遊印の一部。
座右の名や風流な言葉を印文として用いている。


第二回ギャラリー総評

三月の更新ということで、テーマは必然的に「春」となった。
春は開放的な季節であるが、すべてが開放的とはいかない。
「出会いと別れ」が、一番多いときでもある。
和歌においても、春は気候・草花・友人等題材が豊富、そのため数多くの歌がうたわれている。
万葉集や古今集の春の花は「梅」で、現在の「桜」と違うのが面白い。
今回、色紙に「金石之交わり」を書いた。もちろん「春」の別れを意識した課題として取り上げたのだが、もう一つには、私の住む石川県金沢市金石(「かないわ」と読む)のいわれは「金石之交わり」からきていることも取り上げた理由である。

平成25年2月25日