憩いの空間 嶺風の書斎 雲心庵

ギャラリー 第十九回

かな書

古今和歌集

【作品】
夏の夜の臥すかとすればほととぎす鳴くひとこゑに明(あ)くるしののめ

[古今和歌集 紀貫之]

【意味】
夏の夜である。ちょっと横になったかと思うと、ほととぎすのひと声がすぐに聞こえて、それに催されるかのように、東の空がしらじらと明けはじめる。

[小学館 古今和歌集 小沢正夫著より]

【解説】
紀貫之といえば、横綱級の歌人である。万葉集との違いは、まず「かな」で書かれている事。公用語の漢字でなく「かな」を使ったことに、その後の和歌に大きな影響を及ぼした。


ペン書

古事記  [神の名はカタカナで表記する]

【作品】
ここに天つ神諸の命もちて、伊邪那岐命、伊邪那美命、二柱の神に、「この漂へる國を修め理り固め成せ。」と詔りて、天の沼矛を賜ひて、言依さしたまひき。故、二柱の神、天の浮橋に立たして、その 沼矛を指し下ろして晝きたまへば、鹽こをろにをろに晝き鳴して引き上げたまふ時、その矛より垂り落つる鹽、累なり積もりて島と成りき。これ淤能碁呂島なり

【読み】
さて、アメノミナカヌシの神からアメノトコタチの神に至る別天神五神のお言葉で、イザナキの命、イザナミの命の二神に、「この漂って人間の住む国土を整え固めて完成せよ」と仰せられて、高天原の、玉で飾った矛をお授けになり、ご委任になった。そこで、イザナキの命とイザナミの命の二神は、天界と下界とを繋ぐ天の浮橋にお立ちになり、その玉で飾られた矛をさし下して掻き回され、海水をころころと掻き鳴らしてその矛を引き上げなさった時、その矛の先端から滴り落ちる海水が重なり積もって島となった。これがおのずと凝り固まったの意のオノゴロ島である。

[勉誠出版 古事記 緒方惟章訳を参照]

【解説】
いよいよ私たちが住んでいる国が、淤能碁呂島(オノゴロ島)といい、その島が、イザナキの命とイザナミの命によって、どのように作られたかが書かれています。これを修理固成(しゅうりこせい)「国土を整え固めて完成させること」という別天神五神のお言葉で、この国が出来たのだ。


漢字書

三體千字文

【作品】
寒来暑往(かんらい しょおう)

【意味】
寒さがやって来れば、暑さは去ってゆき

【解説】
「寒」や「暑」は間延びしないよに、やや横画の太さを工夫してみました。
三體千字文は、中国の児童の文字を学ぶ手本として、書かれたものだが、けっして侮れない、大人の手本でも十分使える。


色紙

【作品】
終始一如

【意味】
始めから終わりまで全く変わらない事。裏がない

【解説】
一如とは仏教用語である。差別なく平等をいい、それに終始がつけば始めから終わりまでとなる。色紙の題材としては、なにか漠然としているが贈る相手が特定されず、「なにか書いてください」という時には、このような 色紙も乙なものではないでしょうか。


条幅

【作品】
柏葉寿

【読み】
はくようじゅ

【意味】
長寿を祈る言葉

【解説】
今年11月に展覧会を開催する。そこで古希を迎えるにあたり題材を模索していたが、この「柏葉寿」を書いてみようとして仕上げている。表装すればまた、違った感じになると思うが、このコーナーで見ていただこうと思い発表することにした次第です。


篆刻

【作品】
流水不腐

【意味】
流れる水は腐らない

【解説】
私の作品でなく愛用品を掲載しました。
良くも悪くも「まんねり」という言葉がある、安定感がある一方、それが長く続くと弊害が起きる。人間は生まれて死ぬまで止まることが出来ないような宿命を持っている。その戒めとして本課題のように分かり易く諭す言葉が生まれた。


第十九回ギャラリーを書き終えて

四月から「溪風書道会」を立ち上げました。そのため自分の時間がとれなくなり、ゆったりとした気分で「書」を楽しむという基本が奪われています。
しかし、わが師の「評論家になるな、一生作家であり続けろ」の教えを守り、このコーナーを続けていきたいと思っています。

平成29年5月31日