憩いの空間 嶺風の書斎 雲心庵

ギャラリー 第十八回

かな書

古今和歌集

【作品】
色も香もおなじ昔にさくらめど年ふる人ぞあらたまりける

[古今和歌集 六帖六・友則]

【意味】
色も香りも昔と同じように咲いているのだろうが、年を経てここにやってきた我々のほうは、姿がこのように変わっている。

[小学館 古今和歌集 小沢正夫著より]

【解説】
紀友則は古今和歌集の選者の一人。桜の色も香も昔のままなのに、自分だけが老いてしまった。小野小町の“花の色はうつりにけるな いたずらに わが身世にふる ながめせしまに”という歌もある。男と女の違いはあるが、いずれも老い行くわが身の衰えを詠んだ歌。
私も今年古希を迎える。同じ心境になってきている。


ペン書

古事記  [神の名はカタカナで表記する]

【作品】
神世七代 次に成れる神の名は、国之常立神。次に豊雲野神。この二柱の神もまた、獨神と成りまして、身を隠したまひき。次に成れる神の名は、宇比地邇神、次に妹須比智邇神。次に角杙神、次に妹活杙神。次に意富斗能地神、次に妹大斗乃辨神。次に於母陀流神、次に妹阿夜訶志古泥神。次に伊邪那岐神。次に妹伊邪那美神。上の件の国之常立神以下、伊邪那美神以前を、あわせて神世七代と稱ふ。

【読み】
国之常立神(クニノトコタチノカミ)、豊雲野神(トヨクモノノカミ)、宇比地邇神(ウヒヂニノカミ)、妹須比智邇神(イモスヒヂニノカミ)、角杙神(ツノグヒノカミ)妹活杙神(イモイクグヒノカミ)、意富斗能地神(オホトノヂノカミ)、妹大斗乃辨神(イモオホトノベノカミ)、於母陀流神(オモダルノカミ)、妹阿夜訶志古泥神(イモアヤカシコネノカミ)、伊邪那岐神(イザナキノカミ)、妹伊邪那美神(イモイザナミノカミ)

[勉誠出版 古事記 緒方惟章訳を参照]

【解説】
「別天(ことあま)つ神五柱」で天の神を、次に神世七代で地の神が十二柱が現れます。なぜ十二神で七代かというと妹つまり女性の神のこと。宇比地邇神と須比智邇神。角杙神と活杙神。意富斗能地神と大斗乃辨神。於母陀流神と阿夜訶志古泥神。伊邪那岐神と伊邪那美神はいずれもカップルの神。カップルで五代、それに国之常立神と豊雲野神の独り神と合わせて七代となる。
神世七代の最後に現れた伊邪那岐神と伊邪那美神はこれからの国造りの主役となる。それは次回から。


漢字書

三體千字文

【作品】
宇宙洪荒(うちゅう こうこう)

【意味】
宇は空間 宙は現在・過去・未来の時間 洪は大きい 荒はあれる
洪荒は茫漠として広いの意。
空間や時間は広大で、茫漠としている。

【解説】
「荒」について調べてみると、なんと象形文字、つまり物の形から作った漢字。残骨に頭髪が残っている死者の形からの象形。くさ冠は草原でなく、頭髪とはおそれいった。現在では荒々しいというように、あれた状態の時に使う場合が多い。しかし本来は、むなしいという意味なのだ。


色紙

【作品】
遠水猶帰壑(えんすい なお たににかえる)

【意味】
遠から流れる川さえも、それでも谷に帰るという

【解説】
曹鄴の長城下の一句目つまり書き出し部分である。故郷を思う男のノスタルジーを表現している。しかし男って昔も今も孤独なんだと思う。昔は戦いに駆出され、今は単身赴任で両親・妻子と別れ、ふと遠くを眺め、故郷の景色に照らし合わせて、懐かしくなりこんな句が出で来るのだろう。


条幅

【作品】
春宵一刻値千金花有清香月有隠

【読み】
しゅんしょう いっこく あたい せんきん

【意味】
春の宵は千金の値があるくらいすばらしい。花のいい香りがするし、月もいいころあいに霞んでいる。

【解説】
「宵」は日没から午前0時くらいをいう。“春は「宵」が一番いい”と詠っているが、それに対しては、ちょっと異論がある。私のような北国(金沢)に住んでる人間にとって、春はぱあっと明るくなる光が差す時間帯が一番だ。 長い冬から解放された喜びを感じる一瞬なのだ。「春眠不覚暁」という詩の方がしっくりとくる。今回は正統派的に行書で書きました。


篆刻

【作品】
一華開五葉(いちげ ごようにひらく)

【意味】
二つの解釈があるという。一つはこの句を詠んだ達磨大師が、自分の伝えた禅が、将来五つの流派に分化し、大いに繁栄するという予言。もう一つは、一つの花が五枚の花びらを開き、やがて立派な実を結ぶ。家業の繁栄や子孫繁昌する語としてよく書の題材となっている。

[淡交社「禅語の茶掛」芳賀幸四郎著より抜粋]

【解説】
今回は、私の作品でなく愛用品を掲載しました。プロの作品は石の形、刻の正確さはさすがだと思います。ただしどこか人間味の欠けた感も、次回には人間味あふれる作品を載せれればと思っています。


第十八回ギャラリーを書き終えて

今回はわたくし事で多忙を極め、かなり時間的に追われたかたちになりました。
継続とは力なりといいますが、これだけ続くと何となく要領よく「これを書こう」というアイデアがすぐ出てくるようになりうまく乗り切ったという感じでいます。
待ちに待った春がもうすぐ、気持ちを前向きにして先に向かって進んでいきます。

平成29年2月28日