憩いの空間 嶺風の書斎 雲心庵

ギャラリー 第十回

かな書

【読み】
大和には群山あれどとりよろふ天の香具山登り立ち国見をすれば国原は煙立ち立つ海原は かまめ立ち立つうまし国そあきづ島大和の国は

[万葉集 巻第一(二)]

【意味】
大和には 群山があるが とくに良い 天の香具山よ 登り立って 国見をす ると 広い平野には かまどの煙があちこちから立ち上がっている 広い水面 には かもめが盛んに飛び立っている ほんとうに結構な国だ (あきつ島) 大和の国は

(小学館 日本の古典第二巻 萬葉集(一)より転記)

【解説】
天皇の御歌を取り上げます。このような歌の形式を長歌といい、万葉集では、長歌と短歌が混在、その後長歌は衰退していきます。
舒明天皇の堂々とした雄大な歌。奈良盆地から海が見えるのかという、余計な疑問なんか吹き飛ばす、これが帝王の歌なのだ。


ペン書

【作品】
改めて益なき事は、改めぬを、良しとするなり。

[徒然草 百二十七段]

【意味】
改めても状況がよくならないようなことは、改めない方をよしとする。

(島内裕子訳 徒然草より転記)

【解説】
普段なにげなく思っていたことを、はっきりと文章化された書物にめぐりあうと 思わず膝を打つというか、「そうだそのとうり」と確信に変わることがある。
この段も短い言葉だが、なかなか意味深い。 その見極めを、決断する勇気 また踏ん切り時を考えさせられる文となっている。   


漢字書

【作品】
愛 [楷書・行書・草書・隷書]

【読み】
あい

【解説】
愛という文字の成り立ちは「後ろに心を残しながら、立ち去ろうとする人の姿をうつしたものであろう」(平凡社 白川静 字統より)。決してハッピーな感じはしないが。近年になって「LOVE」として生まれ変わり、人気な文字となっている。その文字をいろいろな書体で書いてみました。


色紙

【作品】
仁義礼智忠信孝俤

【意味】
論語の言葉。日本の古学、伊藤仁斎の童子問に記されている。
社会に生きるうえで必要な道徳を説いている。

【解説】
今年の春の歌舞伎の演題が南総里見八犬伝となった。私は子供の頃に映画で見たことがある、今では大御所となっている里見浩太郎さんが新人としてデビューした映画だと記憶している。里見家再興のため、八人の勇士・ 犬士が全国に散らばっていたが伏姫の許婚の努力で巡り合い、再興を遂 げるという壮大なスケールの物語である。その中で大きなキーワードとな るのが「仁義礼智忠信孝俤」という玉をもった八犬士であった。


条幅

【作品】
無我是仙郷

【読み】
無我これ仙郷

【意味】
無我の境地にいれば、それ仙人の郷である

【解説】
夏目漱石・閑居偶成似臨風詞兄より
半切に大号の筆で思い切り書き上げました。今回は五文字、使用した紙は 三十年古紙、墨量を多くしましたがそれに耐える紙だったので、書き手と しては気持ちよく書き上げることができた。


篆刻

【作品】
亀龍壽

【読み】
きりょうのじゅ

【解説】
意味は人の長寿を祝うことば。篆刻の魅力は、石を彫る感触を味わうことにある。石の形は四角が基本だが、今回のように変形した石(印材)もある。
文字は小篆とし、亀龍は密に、壽はおおらかな疎に書き、それを彫りあげた。正直、石ありきで彫ったため、使用用途は不明である。


第十回ギャラリーを書き終えて

記念すべき第十回を迎えました。三か月ごとの更新は、粗製乱造の感を否めません。 このHPの目的は、自由に書いてみて、その中から本来の作品に持っていく、いわば試験的・実験的な意味合いで作っています。皆様も気軽にご覧いただき、駄作にたいしてブーイングしていただければと思っています。
健康に留意し、これからも発表していきますので、よろしくお願いいたします。

平成27年2月28日