憩いの空間 嶺風の書斎 雲心庵

ギャラリー 第三回

かな書

万葉集より

【読み】
「天の海に雲の波立ち 月の船星の林に漕ぎ隠る見ゆ」

【意味】
夜空に雲が大きな海に波がゆったりと揺れるように湧き上がり、その大海に船のような三日月が、林一杯に煌めいている星の中を漕ぎ進んでいるよ。

【解説】
今回は「万葉歌人」の第一人者、柿本人麻呂にスポットを当てて見ました。同時代史料には人麻呂に関する記述がなく、生涯については謎とされています。そのため多くの作家がその謎ときに挑戦、作品が書かれている。
今から約1,300年前の飛鳥時代の歌人が、このスケールの大きい歌を。21世紀の私が読んでも、一瞬世の中の騒音がすべて消え、壮大なパノラマが体感できるような心の安らぎを感じます。


随筆

徒然草 「十六段」 神楽は、優雅でおもしろい。横笛と篳篥もいいが、常に聞きたいのは、琵琶と和琴である。

【解説】
音楽は「楽」を語源とする。音楽を聴いていると「楽しい」そこで訓読みは、「たの(しい)」、そして「らく」になると拡大解釈となった。
日本は海に囲まれているため、古来必要な時(?)に海外から輸入し、ある程度受け入れると、国を閉めてしまう。遣唐使の廃止、江戸時代の鎖国、そして閉じている時に、輸入したものを日本式に進化させる。音楽の世界も同様で、神楽(雅楽)後の邦楽もそのようにして進化をたどり、江戸になると世界に例の見ない「歌舞伎」「人形浄瑠璃」などの大衆芸術が生まれ、現代に受け継がれている。


漢字書

【作品】
霊祭「れいさい」

【解説】
盆に、祖霊を迎え祭る事ということで、「お盆」をテーマとして書きました。仏教用語は、書家としては書かないよう努めている。理由は簡単で、仏の修行をしていない者が書いても何の値もない、と思っているからです。
しかし、「お盆」は、ご無沙汰しているご先祖のお墓詣りをしたり、離れ離れの家族が久しぶりに会ったり、それがあるから亡くなった家族を思い出す期間となり、年中行事の一部となっている。


色紙

【読み】
祝您小吉星「ささやかな幸せを祈ってる」

【意味】
坂本九の[見上げてごらん夜の星を]より

【解説】
八月十二日は、子供の頃はよく忘れられていた私の誕生日、夏休みの中で、後になって気づかれるという運命にあった。しかし御巣鷹山の日航機墜落事故以来、忘れられない日となってしまった。
その飛行機に、大歌手坂本九さんが乗り合わせ、帰らぬ人となりました。ジャズをベースとした歌い方は、今でも彼の名曲を歌う他の歌手に追随を許さない、大好きな歌手の一人である。

合掌


条幅

【作品】
仙客来遊雲外巓神龍棲老洞中渕雪如丸素煙如柄白扇倒懸東海天

【読み】
仙客来たり遊ぶ雲外の巓(いただき)、神龍すみ老う洞中の渕、雪は丸素の如く、煙は柄の如し、白扇さかしまにかかる東海の天

【解説】
漢詩は、戦前の日本では教養の一環として、多くの政治家、文人等が読み楽しんでいる。今も詩吟として、余興に漢詩をそらんじる人を見ると、感嘆することしきり。今回の詩は石川丈山作「富士山」、白扇倒懸は雪を抱いた富士山は白扇を大きく開き、その要が富士山の頂上となり、扇を逆さにしたようだと歌っています。


篆刻

【作品】
蝉翼 : 光華

【読み】
せんよく : こうか

【解説】
篆刻は「篆書体」を石に書き、それを刻むのであるが、その文字は鏡文字になっていなければならない。そのためにいろいろな工夫を先人たちが行っている。その説明は今後していきたいと思っています。今回は直接石に篆書の鑑文字を筆で書いてみた。そのため、若干線に歪みがあるようです。これも修行のうちと、大目に見ていただきたい。


第三回ギャラリー総評

二月末に第二回の作品を書きあげ、次回はと、題材を選ぶとき、最初に「かな書」の柿本人麻呂の歌であり、その流れで、坂本九さんの「見上げてごらん夜の星を」になった。条幅の「富士山」を書いている時、偶然にも世界遺産に推薦という一報がテレビに流れ、偶然にしては出来すぎていると感じた。しばらくは季節に沿った題材になると思うが、おいおい心に残った言葉等、書いていきます。

平成25年5月30日