憩いの空間 嶺風の書斎 雲心庵

ギャラリー 第八回

かな書

万葉集より

【読み】
朝寝髪吾(あ)はけずらじ愛(うるは)しき君が手枕触れてしものを [作者不詳]

【意味】
今日の寝起きのみだれ髪に、私は櫛を通しません。いとしいあの人が手枕になって、触れていたものだから

【解説】
万葉集約4500首の内、作者不詳の歌は約2200首くらいあると言われている。どうしてそういう歌を集めることができたのか、選者といわれる人へ匿名で送り込まれたのか、自分の歌が選ばれたと知った時の喜びは、想像するだけで、わくわくする。
取り上げた歌は、ちょっと人に言えない艶めかしい雰囲気の歌、作者不詳とせざるを得まい。


ペン書

【作品】
延政門院いときなくおはしましける時、院へ参る人に御ことつてとて申させ給ひける御歌、
ふたつ文字牛の角文字すぐな文字ゆがみ文字とぞ君は覚ゆる
恋しく思ひ参らせ給ふとなり。

(三木紀人著 徒然草全訳注)

【意味】
延政門院が御幼少でいらっしゃった時に、院に参上する人に御伝言を頼んで申し上げなさったというお歌、
ふたつ文字(こ)、牛の角のような文字(い)、まっすぐな文字(し)、ゆがんだ形の文字(く)、そのようにあなた様のことが思われます。
これは、院のことを恋しくお思い申し上げなさっているという内容である。

【解説】
御幼少とはいったい何歳の時の話でしょうか。なんと機知に富んだ伝言でしょうか、この話をどこで兼好は聞いたのか、相手の女性は天皇の御息女なのだから、この老人隅に置けない。


漢字書

【作品】
飛燕

【読み】
ひえん

【解説】
今回は「漢字の書き順(筆順)」についてお話ししいたいと思います。
筆順とは、学習する上で混乱しないよう、出来るだけ統一する目的で作成されています。ところが、筆順が試験や入試問題になってきた為おかしくなりました。もともと強制するものではないのです。
ただ、自分の字をもう少し美しく書けないか、と思っている方は筆順を確認して見てください。ただしあくまでも参考として。


色紙

【作品】
空へ若竹のなやみなし [種田山頭火の句]

【意味】
若竹ののびやかな姿に感銘した

【解説】
若竹の伸び行く姿と山頭火の現実の境遇の対比がたまらない魅力だ
最近、断捨離(だんしゃり)と言われ、アドバイザーまで出てくるようになりましが、絶対に捨てられない物があります。それは筆、穂先がすり減り、どう見ても書ける状態で無い筆でも愛着がある。そんな筆の中の一本で書いてみました。もちろん正常といいますか、正統な運筆では文字にならないので、だましだまし書いて見ました。しかし書く度に別な作品になり、あらためて筆のもつ魔術に驚かされた。


条幅

【作品】
一滴潤乾坤

【読み】
いってき、けんこんをうるおす

【意味】
一滴の水 天地すなわち宇宙を潤す

[禅語]

【解説】
今回は茶掛けの書として書きました。
禅語は度々作品として取り上げています。
とにかく、解釈が深く「噛めば噛むほど味が出る」という感がします。
秋の澄んだ日に、この書で一服のお茶をいかがですか。


篆刻

【作品】

【読み】
び(肖生、干支印)

【解説】
恒例の来年の干支(未・羊)に合わせて彫りました。 美は羊が大きくなる、と書きます。古人は食用だった羊が大きくなりそれを 食べるとふくよかな美しさとなる。 ダイエットしないぽちゃり型の女性が美人だった。


第八回ギャラリーを書き終えて

日本人はどちらかといえば「褒め言葉」が苦手なようです。展覧会においても「お上手ですね、うまいわ」という言葉がよく聞かれます。お話を聞くと「どういう言葉で褒めていいのかわからない」という方が大半の意見のようです。
書道でいえば、展覧会に出す作家で、上手に書こうとか、うまく書こうという人はほとんどいません。何かを訴えたい、感じてほしいと主張して出展しているのです。
よって「お上手ね、うまいね」という褒め言葉はむしろ言われたくない言葉なのです。
(子供さんには最適です。先生の指導どおりに書かれるから)
「力強い字ね」「躍動感があるね」ご年配の方には「若々しい線ね」ご婦人には「あなたのお姿同様上品な作品ね」と、ひょっとすると何か御馳走して頂けるかも。
少し褒め言葉を工夫されてはいかがでしょうか。

平成26年8月30日