かな書
万葉集より
【読み】
春の野に すみれ摘みにと来(こ)しわれそ 野をなつかしみ一夜寝にける
【意味】
春の野に菫を摘みに来た私は、野をなつかしく思って、一夜野で寝てしまった
【解説】
山部赤人は代表的な万葉歌人の一人で、自然の美しさや清さを詠んだ叙景歌で知られている。明るい色彩を感じる歌で、ちょっと現実離れしたところが万葉風のおおらかさか。日本の美に焦点を合わせて歌う原型をつくったと言われている。
随筆 ペン書
徒然草 第35段
【作品】
手のわろき人の、はばからず文書き散らすは、良し、見苦しとて、人に書かするは、うるさし。
(三木紀人著 徒然草全訳注)
【意味】
字が下手な人が、そのことを気にせずに、伸び伸びと書くのはよいことだ、それに対して、自分の字が下手で見苦しいからといって、他人に字を書かせるのは、わざとらしくていやみだ。
【解説】
徒然草は、244段まであるが、その文章は短くて簡潔。そのためぐさりとくる鋭さがあり、序段の「日暮らし硯に向かいて心にうつりゆく由無しごと」からは想像のできない(老人の戯れ風)はっきりとした観察が垣間見える。
漢字書
【作品】
永和九年歳在
【読み】
えいわきゅうねんとしはあり
【解説】
漢字書の勉強方法の一つとして臨書(りんしょ)がある。臨書とは、先人が書いた素晴らしい“書”を手本とすることだが、ただ真似るのではなく、そこから伝わるもの、線の勢いだったり、筆圧の強弱だったりが、手本からどう読み取れるか、それを繰り返し繰り返しして自分の線を作っていくことになる。
今回は書聖「王羲之」の「蘭亭叙」の書き出しの六文字を臨書してみました。
色紙
【作品】
「ありがとう」って伝えたくて あなたを見つめるけど 繋がれた右手は誰よりも優しく ほら この声を受け止めている
【意味】
いきものがかり「ありがとう」の歌いだしの一節
【解説】
歌番組がTVから少なくなったと言われる。次から次へと歌手が入れ替わりその歌の余韻に浸ることのないまま、次の歌手の歌を聞かされることになる。
特に、最近言葉がはっきりしない歌い方が主流になると、さっぱりなにを歌っているのかわからない、ところが、YouTubeという便利なものが出てきた、自分の好きな歌手や歌をたっぷり聞ける。この歌もその一曲だ「添え書き風」に書いてみました。
条幅
【作品】
馬上青年過時平白髪多残軀天所許不楽復如何
【読み】
馬上、青年過ぐ。時(とき)平らかにして白髪多し。残軀は天の許す所。楽しまずして復(ま)た如何(いかん)せん
【意味】
[伊達正宗の詩]自分は若い時代を、戦いに明け暮れて過ごした。今は太平の世であるが、すでに白髪の老齢の身となった。天に与えられた残りの人生、楽しまなくてどうすのだ。
【解説】
私の時代の“戦い”とは、仕事にほかならない。毎日毎日夜遅くまで机に向かって書類と格闘していた。定年を迎えた今、この漢詩と同じ心境になっている。
篆刻
【作品】
筆歌墨舞
【読み】
ふでうたい すみまう
【解説】
篆刻に刻む文字として、篆書および隷書体があるが、今回の文字は、篆書の中でも簡帛(かんぱく)文字、木簡、竹簡や布に書いた文字です。
現在、我々が使っている「楷書」や「行書」文字は、こうした文字の遍歴をへて出来上がった文字なのです。
第六回ギャラリーを書き終えて
よく「私は字が下手で“書”はむり」という話を聞くことがあります。
字が上手い、下手という話のまえに、ぜひ観て頂きたい手紙があります。
野口英世博士の母シカさんが、当時アメリカで活躍されていた博士にあてた手紙です。
まさに母から子にあてた、心からの叫びです。息子に「一度会いたい、帰ってきてほしい」という文面に、字の上手、下手を超越した感動があり、これが、“書”の究極の作品だと思っています。一歩でも近づけたらと思いつつ、、、、、、、
平成26年2月28日