憩いの空間 嶺風の書斎 雲心庵

ギャラリー 第七回

かな書

万葉集より

【読み】
水鳥の立ちの急ぎに父母に物はずけにて今ぞ悔しき

【意味】
水鳥が飛び立つようなあわただしさで旅立ち、父母に別れの言葉をいう事も出来ず、それが今となって悔やまれる

【解説】
万葉集に防人の歌として取り上げられ、その旅立ちがいかに急なもであったかがわかる。防人とは唐・新羅の攻撃から国を守るため、日本各地から集められた農民であった。百済を助けるため、多くの援軍を送ったが、大敗し、戦力を失い、まったくの素人集団が、九州沿岸の防衛に配備された。そのため遠く家族のことを思い、また留守を守る妻や父が読んだ飾らない素直な歌が多く、読む人の胸を打つ。


ペン書

徒然草 第35段

【作品】
家の作りようは、夏をむねとすべし。冬はいかなる所にも住まる。暑きころわろき住居は、堪えがたき事なり。
深き水は涼しげなし。浅くて流れたる、遥かに涼し。こまかなる物を見るに、遣戸は蔀の間よりも明し。天井の高きは、冬寒く、灯暗し。造作は、用なき所をつくりたる、見るも面白く、よろづの用にも立ちてよしとぞ、人の定めあひ侍りなし。

(三木紀人著 徒然草全訳注)

【意味】
家の作り方は、夏の住みやすさを考えるべきである。冬はどんな所にも住めるのだ。暑い時分に住みにくい家は堪えがたいものである。遣水の深いのは涼感がない。浅く、流れている水は、はるかに涼しい。遣戸のある部屋は、蔀の部屋より明るく、都合がよい。天井の高いのは、冬寒く、燈火が暗い。家の造りは、とくに必要のない所を作るのが、見た目もよく、いろいろと役に立って、結構なものだと、みなで共感しあったことがある。

【解説】
兼好さんの個人としての意見ではなく、「人の定めあひ侍りなり」と皆で共感しあった感想だと。印象に残った話を書き留める習慣があったから書けた段みたいです。


漢字書

【作品】
九成宮醴泉銘

【読み】
きゅうせいきゅうれいせんめい

【解説】
臨書(りんしょ)の第二弾、楷書の手本として特に有名な欧陽詢(おうようじゅん)の「九成宮醴泉銘」です。縦長のきりっとした線は「楷法の極則」とい われ、臨書の手本として後世の書に大きな影響を与えています。630年ごろ76歳の作品で、一画一画を大変な緊張感を持って運筆され、書いてみて改めて楷書のもつ独特の緊張感を体験しました。


色紙

【作品】
思無邪(おもいよこしまなし)

【意味】
自分の思っていることを、ありのままにうちあけて、いつわり飾ることがない

【解説】
夏に向かうので、扇子に書きました。
扇子で思い出すのは、羽生名人が扇子をぱたぱたさせながら局面を考え、パチンと閉じると盤に駒音高く打ち込む姿が目に浮かぶ。


条幅

【作品】
幾歴辛酸志始堅丈夫玉砕愧甎全一家遺事人知否不為児孫買美田

【読み】
幾たびか辛酸をへて志(こころざし)はじめて堅(かた)し、丈夫玉砕して甎全(せんぜん)を愧(は)す。一家の遺事(いじ)人知るやいなや、児孫(じそん)のため 美田(びでん)を買(か)わず。

【意味】
[西郷南洲翁遺訓]「人の志というものは何度もつらい目を経て始めて固まってくるものである。真の男子たるものは玉となって砕けても、瓦のようになっていつまでも生きながらえることは恥とするものである。自分が我が家に残しておくべき教えとしているものがあるが、それを知っているであろうか。それは子孫のために良い田を買わない、すなわち財産を残さないということだ」

[「偉人録」郷土の偉人を学ぶより転記]

【解説】
西郷南洲とは西郷隆盛の雅号である。江戸無血開城という歴史に残る偉業を成し遂げながら、明治新政権発足後まもなく野に下り、西南戦争で自決する。しかし、今なお大衆から慕われ、上野の西郷さんの銅像では本当に国を愛し、人を愛するおだやかな姿がほほえましい


篆刻

【作品】
漢委奴国王

【読み】
かんのわのなのこくおう

【解説】
摸刻(もこく)といって技術向上のため、先人の刻した印を模倣すること。
今回は「金印」後漢の光武帝から賜った、まさに国宝の金印である。
本物は残念ながら摸刻できないので、インターネットのウィキペディアの画像で刻しました


第七回ギャラリーを書き終えて

実際体験してみると、事前に抱いていたイメージとのギャップに驚くことがある。
今回、初体験で「扇子」いわゆる白扇(はくせん:白い紙が貼ってある扇)に筆で書いてみた。
ところが、扇骨(竹で作られている部分)に苦戦し、思うように墨が扇面にのらず、作品にならない。
そこで考えたのが、提灯に文字や絵を描いている処を参考にと、動画を検索。しかし、書の筆の使い方と違うため、その使用は断念。
詳しくは紙面の関係で書けないが、最後は扇面の真上から思い切って筆を強く突くように書いてみました。

平成26年5月30日